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このジイサンにはかなわないな。
俺の不満を解消して、なおかつあの子にも笑顔を与える一石二鳥を狙ったわけだ。
「視力に関しては申し訳ない。お前さんの目は恐らく10年は見えないままじゃと思う。許しておくれ」
10年!?一生じゃないのか?代償は等価交換だから2度と見えなくなるんじゃないのか?
「お前さん。よもや一生見えなくなると思っていたのに、それでもあの子に自分の目を与えたのかい?」
問われて、俺は素直に頷いた。
「だって、あの子の望みはオーロラを見せたところで、とうてい叶えられるもんじゃなかったわけじゃないですか。
ならば、俺の目をあげるしかなかったわけで、サンタクロースである以上、喜んでもらわなきゃ意味がないじゃないですか」
「お前さんは……『幸福な王子』を地でやりおるか……」
長老は呆れながらも、嬉しそうな声音でそう言うと、今度は厳しい声で俺を諭した。
「今回はサンタクロースは常人より遥かに優れた視力を持っているからこそプレゼントするように私が仕向けた。
失明することはないと分かっておったからじゃ。
じゃがの、今回はあくまで特例じゃ。
金輪際やってはならぬ。子供の笑顔も大切じゃが、それよりもお前さん自身を大切にするのじゃ。よいな?」
そうしないと『幸福な王子』のようにボロボロになると言いたいのだろう。
確かに、それは勘弁だ。
でも、サンタクロースを信じてくれる存在がまだいて、最高の笑顔を見れたことは大きい。
あんな笑顔を見ることが出来るなら、『幸福な王子』でありたいと思える自分もいた。
何故なら童話の彼の最後は、愛しいツバメを死なせてしまう悲惨な結末だけど、それでも人々の笑顔を見れた彼は幸福だったに違いないのだから。
───終わり───
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