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帰り道、俺は相方であるトナカイのアリに礼を言った。
「アリ、アリガトな。目を貸してくれて」
「あの子の笑顔、見れたかい?ダンナ」
「ああ、見れた。最高の笑顔だったよ」
「そうかい。そいつは良かったな」
ぶっきらぼうな言い方だが、アリは心から喜んでくれている。
大好きな雲の上から見る星空を楽しむことはもう出来ない。
でも、俺の心は満たされていた。
プレゼントを心から喜んでくれて、しかもサンタクロースを信じてくれた子が幸福なX'masを過ごして貰えるのだから。
目が見えなくなった俺は、もうソリを走らせることが出来ないため、アリの帰巣本能に任せた。
よって戻って来れたのは、新しい年を迎えた朝だった。
アリの足音が“キュッキュ”と鳴っている。
水分の少ない雪を踏みしめる音だ。
どうやら戻ってきたらしい。
俺はソリから降りると、俺を迎えに長老が来てくれていた。
彼は、目の見えない俺を暖かい家の中へと誘導してくれた。
暖炉からは薪の心地のいい音。
部屋中から香る優しい木の香り。
目が見えなくても、いや、見えないからこそこの空間が癒しを与えてくれる場所だと実感できる。
「アレック。どうじゃったかな?」
長老の声も優しい。
「ご覧の通り禁忌を犯しました」
「そのようじゃの。じゃが、私はお前さんなら必ずそうしてくれると思ったからこそ、あの子の家に行かせたのじゃよ」
禁忌を犯した俺に対して、優しい口調なのは長老の思い通りだったからなのかと合点がいきながらも、俺は疑問をぶつけた。
「何故俺だったのですか?俺の金持ち嫌いは知っていたでしょう?そんなところへ俺を行かせるのに不安はなかったのですか?」
「お前さんは仕事が嫌いなわけじゃなかろう?寧ろ好きだからこそ不満を抱いておった。
他の者達は仕事に忠実じゃ。それは決して悪いことではない。
じゃがの、ただ事務的に依頼されたプレゼントを渡すだけでは、子供たちは真の笑顔を見せてはくれぬ。
子供が本当に欲しているものを見極めてこそサンタクロースの存在理由なのだと私は思うのじゃよ。
だからこそ私はお前さんなら必ず成し遂げてくれると信じておった。
ありがとう。アレック」
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