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俺達は、クリスマスまで後一週間を切った冬の日、イルミネーションの煌めく町を二人並んで歩いていた。
街は、人々で賑わっている。
俺達は、そんな周囲の騒がしさを気にすることもなく、むしろ、それらを無言で眺めて楽しんでいた。
それらの風景は、見ているだけで、心が弾んだ。
「綺麗ですね」
俺がそう言うと、神谷さんは、割かし珍しいトーンで、そうだね、と返事をした。
彼の目は、周囲のたくさんの煌めくものたちに釘付けとなっている。
彼は、歩きながらもそれらを一生懸命に見ようとしていて、そんな神谷さんの横顔を俺はじっと見つめていた。
可愛い。
本当に可愛い。
寒さのせいか、頬が紅揚している。
さらさらと風になびく焦げ茶色の髪の毛に目を奪われる。
少しだけ顔を寄せると、彼特有の甘い香りが鼻孔をくすぐった。
青い色をした美しいイルミネーションを指差しながら、にこにこと笑う彼を、今すぐ抱き締めてしまいたい。
「ねぇ、小野くん、あそこ座ろ」
俺のジャンパーの袖をちょこっと掴む彼の手が、とても愛おしい。
神谷さんが指差したベンチに腰を下ろすと、彼は身体を俺にぴったりと密着させてきた。
心臓が高鳴る。
「寒い…。小野くんどうにかしてよ」
糖度高めの声でそんなこと言われれば、ひとたまりもない。
誰だって落ちる。
洒落にならないくらい、今すぐ抱き締めてしまいたい。でも、ここでは、人が見る。
俺は、彼の手を優しく両手で握ってから離すと、彼は寂しそうに下を向いた。
そんな顔、しないで下さい。
彼は、うつむいたまま、その細い綺麗な手を自分の口元に当てると白い息を吐いた。
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