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―――人間だ。
彼は心のなかでそう呟いた。
―――人間がなぜこんな村はずれの森の古い祠の前にいる?
昼間でも村から離れているためかあまり人が来ることはないというのに。
彼は人間ではなかった。
見た目こそ人のそれと同じようだが、森にすむ妖狐であった。
妖狐は少女に近づいた。
気配に気付いた少女が振り返った。
妖狐はその少女を観察するようにじっと見ると口を開いた。
「お前、なぜここにいる?
今は丑三つ時。
最も多くの妖怪どもが目を覚ましている時間だ。
お前のような娘がこんなところにいたら人食い妖怪の餌食になってしまうのは目に見えているだろう。
それとも鬼どもに食われることがお前の望みか?
命を粗末にするやつ大嫌いだ。
早く家に帰れ。」
低い声。
それでいて耳の奥に残るような透き通った声だった。
少女は怯えているようだった。
そしてゆっくりと口を開い
た。
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