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「…俺に人を食う趣味はない。
生贄、か。
村で何があったのかは知らんが無駄だ。
ここに神が来るのは数年に一度。
それもつい先日ここを訪れ、去ったばかりだ。
再びこの森に神が訪れるころには人間のお前は死んでいるだろうな。」
「え…?嘘でしょう?だって…。」
「嘘ではない。村に帰れ。
――今夜は満月。
満月は妖力を高める。
理由は知らないがな。
今、俺は少し機嫌がいい。
本意ではないが、村の近くまで送っていってやる。
俺がいればほかの雑魚妖怪どもはそう簡単には近寄ってこない。」
「それはできません!
村の人たちは皆、同じ村人である私を神にささげてまで助けを求めている。
今、私が生きたまま村へ帰れば皆きっとがっかりするでしょう。
村には帰れません。」
少女の体は小刻みに震えていた。
生贄となれば死ぬことの方が多い。
神に気に入られ神の召使いとなっても人には戻れることはまずないだろう。
時に、神は人が思っている以上に残酷だ。
それでもこの少女は生贄となることを受け入れているようであった。
“村の皆のため”に。
恐怖で体を震わせて涙目になりながらも村へ帰ろうとはしなかった。
「なぜ、そこまでする?
お前の言う“村の皆”がそんなに大切か?」
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