1人が本棚に入れています
本棚に追加
桜の蕾が膨らみ始めた、3月。卒業式を終えたクラスメイト達が散り散りになって行く中、何故か安曇竜兵は人生の岐路に立たされていた。
「竜さ…、今の俺の話、聞いてた?」
体育館裏の倉庫とプール更衣室の狭間に呼び出されたこのシチュエーションは本来、ときめきと期待・不安が入り混じるはずなのだが。…残念ながら現実はそううまくはいかないようである。
「うん」
殊更に言ってのける竜兵に、目の前の男…吉冨善は切れ長の目を僅かに眇めた。
「とりあえず、竜って呼ぶのはやめろ」
「安曇」
竜兵は大仰に「うむ」と答えて一度深々と頷く。
「で、返事は?」
余裕を見せている竜兵だが、実はとんでもなく切羽詰まっている。…それもそのはず。
『付き合わない?』
笑顔一つ作れない善の顔を見て、その言葉の真意が分かってしまったのである。
『付き合って』には二重にあると思うのだが、ちょっとお出かけしませんか、のニュアンスとは明らかに違うのは表情を見れば分かる。
「…どこまで?」
「どこまで…って…いや、だから」
「だから山手線で言ったら、どこまで付き合えばいいの?」
善は明らかに困って「山手線…」と復唱する。
最初のコメントを投稿しよう!