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「…あの、竜…」
二人きりになって、ようやく竜兵が振り返った。
「安曇」
「あ、安曇……」
善は一歩、踏み出す。学ランのポケットに手を突っ込んだ竜兵が…善を待っていた。
「お前ら早く行こうぜー…」
遠くで、松尾の呼ぶ声が聞こえる。しかし竜兵は無視して、善が自分の前に立つのを待った。
「あのさ」
「……お、おぉ」
善が竜兵の前に立つ。もう触れられるほどの距離だ。見下ろしてくる男に少しでも近付こうと、仰のいて爪先を立てる。
「…お前にだけ言い忘れてたんだけど。オレね、慶安大学受験してねーの」
「え」
いつもは切れ長のきりりとした目元が、驚きを表して見開かれる。
「でも、センターは一緒に…」
「だから春からはお前と同じ、明和大学。OK?」
竜兵にしては2ランクくらい落とした、中堅どころの大学である。同時に春から善が通う大学でもあった。
「マジで…?」
驚愕する善に笑いかけ、「学部は違うけどな」と付け足した。しかしそうなるとつけ上がってしまうのが善の悪いところだ。
「…そっ!それで結局返事は!?」
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