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朝食は親方の家で食べる。
他の職人の先輩も何人かはそんな感じ。
結婚して家庭のある人は家で食べてくる人もいれば、結婚前からここで働いてて結婚してからも奥さんの朝ごはんを食べに来る人もいる。
朝が早かったり不定期な事もあるし、時には出張なんかもあるから朝ごはんを用意するのは面倒だと考える嫁さんたちもいるようだ。
「トンビよ」
「ふぁい?」
口の中にご飯を掻きこんだ所だったので間抜けな返事になる。
「お前は良い嫁さんもらえよ(笑)」
先輩鳶のケンさんが言う。
ごっくんとご飯を飲み込んでから俺は言う。
「なんスか急に?」
「いや…俺、つくづく思うんだけど鳶職やってて仕事に行く時に嫁さんが寝てるままとかないな~って(笑)」
「マジすか(笑)」
「見送りくらいして欲しい(笑)」
鳶職と言う仕事には危険がつきものだ。
高所での作業や足場が悪い中での作業。
季節によっては炎天下の中や極寒の中での仕事もある。
「俺も親方の奥さんみたいに毎日仕事行く時に火打石打ってくれるような嫁さんもらえばよかったって思うよ(笑)」
火打石とは鋼鉄片と硬い石を打ち合わせて火花を飛ばすものだ。
火には厄除けとかおまじないとしての信仰があったとかで、危ない場所に向かうから無事でいて下さいって意味で打つと前に奥さんに聞いた。
この仕事をするまではそんな風習があるとかも知らなかった。
「でも、弁当は用意してくれてるスよね?」
ケンさんは毎日弁当持参だし。
「つっても、前の日の晩におかずが詰めてあって朝に自分でご飯入れて風呂敷に包んでるからな…微妙だ」
「一人身の俺としちゃ、羨ましいですけど(笑)」
「こら!いつまでも食ってないでサッサと用意しろ!」
いつまでも喋ってばかりいたので親方に怒られる。
ちなみに、俺の弁当は奥さんが作ってくれている。
ほんと、ありがたい。
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