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日の光が傾き始めた頃、うっそうとした森から髪の長い女性が顔を覗かせる。
女は辺りを深く勘繰りながら姿を現したかと思えば、ぽんっという音と共に煙に包まれた。
次の瞬間、そこに立っていたはずの女の姿はなく、代わりに美しい毛並みの耳と尻尾を生やした銀髪の女が立っている。
ふわりと鼻を突くのはまだ、秋になりたての淡い夏の匂い。
風に身を任せるように女は一歩、また一歩と歩き人里へとおりていく。
日はどんどん傾いていき、女が人里におりた頃には完璧に夜になっていた。
「明るくなる前には帰らなくては」
人里におりてきたばかりなのに女はぽつりと呟く。
彼女の決意は固く揺るがない。
けれど、そんな気持ちとは裏腹に世界とは残酷なものだと彼女は思い知らされることとなる。
世界がどんなに醜く歪んでいるか、彼女はまだ知らない。
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