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「皆は、家康と三成ってどっちがいい?
私は三成派かな~。ウフフフ」
そう年頃の女の子が好きな子の事を話すように、楽しく語るのは、先生の中で美人女教師とされる、我らが担任火野薫先生。
星のような煌めく笑顔に、桃色の髪。
前髪をヘアピンで止めているのが、印象的だ。
「で、話を元に戻すと、1600年に徳川家康と石田三成は天下を分けて争った…」
しかし、そんな男子を虜にする薫先生の魔性の笑顔を見ても、今の俺は全く癒されなかった。
それどころか、授業の内容が全く入ってこない五時間目の日本史の授業と一人格闘している。
耳には、クラスメートの黒板を書き写すシャープペンシルの音しか聞こえない。
その必死そうな音を聞いても、何かをする気も起こらない。
その証拠に、俺のノートは黒板の内容の半分も書き写していない。
半場、自暴自棄になった俺は頬杖をつき、他人からはやる気なそうに見える態度を敢えてとった。
「有明君。私の授業つまらないのかしら?」
その態度が気にくわなかったのか、薫先生は煌めく笑顔を崩さず、俺に注意してきたが、何やら薫先生の後ろには恐ろしいものがかいま見える。
俺はその姿を見て、背筋にゾクゾクと寒気が走った。
「ご、ごめんなさい!!」
俺は素直にペコリと謝った。
「いえ、今度から気を付けてね」
と、いつもの魅惑の笑顔に戻り、再度授業を続ける薫先生。
そして、それに伴って再び黒板を書き写し始める生徒達。
「当たり前」の日常の一ページの事なのに、今日は「少し違って見える」。
「もう…。わけわかんね…」
俺は机に突っ伏し、窓から見る青空を見上げた。
その空は、俺の心とは裏腹に、キレイに澄みわたっていた
その「姿」に嫌気が指し、俺はすぐさま目を背けた。
そのせいで、薫先生に「集中してない」と怒られたのは、言うまでもない。
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