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「ん…」
俺は自分の携帯の着信音で長い夢から目覚めた。
一つ軽く伸びをして、ポケットから携帯を取り出す。
“荒巻加奈”
すかさず、俺は通話ボタンを押した。
「もしもし…」
おそるおそる電話に出た。
意志が変わらない事を告げに掛けてきたのではないのかあと少し不安になった。
そして、彼女も俺と同じ気持ちなのか、すすり泣く声を交えた、小さな震えた声で言った。
「今日はごめんなさい…。
でも、私――」
「待って。そこから先は明日にしてくれないかな?
明日の昼休み、俺達の始まりの場所でもう一度話そう」
正直に言うと、今はもう少し考えさせてほしい。
だが、明日の俺なら加奈のどちらの“answer”も受けいられる。そんな気がした…
「始まりの場所……わかりました。
では、また明日!!」
彼女は「始まりの場所」に終始戸惑っていたようだが、ようやく理解したのか、先程とはうってかわって元気な声で返事を返した。
「また明日、加奈…」
俺はそれだけ言うと、電話を切った。
ふぅとタメ息をついたが、今の俺は内心ほっとしていた。
「ほっとした顔してるぜ、リア充の一君」
兄貴はリビングのドアの前でケラケラ笑いながら、俺を茶化した。
「見てたのか、趣味悪いな…。
でも、ありがとう健心兄ちゃん…」
俺は素直に兄貴に対して、感謝した。
「そんな事思う暇があるなら、新作のエロゲー買ってこいよ」
兄貴はそう言って、ニッと笑った。
前言撤回。こいつ真性のバカだと改めて気づいた。
だが、
「まあ、多目に見といてやるか」
俺は兄貴につられ、笑い返した。
明日はもっと笑えるといいなと心から願った。
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