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◇◆◇◆
少し、張り切り過ぎたか。
緩やかな坂を上り終えたところで、孝平はゆっくりと、ランニングからウォーキングへと足を切り替えた。
ほんのり汗ばむ顔に、冷たい風が心地よい。
孝平は懐かしい故郷の澄んだ空気を肺の中いっぱいに吸い込んで、小さな公園へと足を踏み入れた。
グラウンドへ行くには、この公園を抜けるのが一番早いのだ。
子供の頃によく遊んだ遊具が、ずいぶんと小さく見える。
ブランコやジャングルジム、鉄棒、滑り台…。
それらの遊具に夢中になる子供たちや、缶コーヒーを片手に公園の隅のベンチで時間を潰す営業マンの姿。
何もかも、懐かしい光景だった。
そんな中、聴こえてきたメロディーに孝平は足を止める。
ランドセルを背負った下校中の小さな女の子たち四、五人が、砂場で歌を歌っていた。
(これ…、車で真由美が歌ってた曲だ…)
やはり、最近のヒット曲なのだろうか。それにしては、テレビやラジオなどでも耳にしたことはない。
よく深夜まで長居することのあるファーストフードの店にも有線が流れているので、ヒット曲なら一度ぐらいは聴いたことがあっても不思議はないのだが。
誰の、曲だろう。
気にはなったが、さすがに小さな女の子相手に話しかけるのも気が引けて、孝平はそのまま公園を歩いて抜けた。
公園を抜けると、眼下に例のグラウンドが見えてくる。
一応、野球場の体裁は取っているが、基本的には公園の延長のようなもの。
野球をするだけでなく、普通に犬を散歩させていたり、なぜかひとつだけしかないサッカーゴールでPK合戦なんかをやっている男の子たちもいる。
「お、やってるやってる」
孝平はその中から、小学生ぐらいの子供たちを相手に大声を張り上げる健一の姿を見つけた。
「よーし、次、サード!ちょっと強めにいくぞ!!」
「はい!!」
どうやら健一は、子供たちの守備練習をしているところのようだ。
健一のノックした痛烈な打球を、グローブを手にした子供たちが必死に追いかけていた。
「楽しそうだな、健一!」
「ん?…おぉ!!孝平!!」
不意に声を掛けられた健一は、突然の旧友の登場に目を見開いた。
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