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「俺がここにいるってよくわかったな?もしかして、俺んち、来た?」
「あぁ。おばさんに教えてもらった」
バットを片手に歩み寄ってくる健一に、孝平はそう答えた。
「そっかそっか!あ、タカさん、ちょっとノック代わってもらっていいですか?いやぁ、しっかし懐かしいなぁ、孝平!!せっかくだからよぅ、お前も子供たちに野球教えてやってくれよ!」
健一はタカさんと呼んだ三十代ぐらいの男性に子供たちの相手を任せ、孝平に微笑みかける。
寒い中、トレーナー一枚という軽装だったが、額には微かに爽やかな汗が光っていた。
健一以外、子供たちもタカさんと呼ばれたコーチと思しき人も皆、同じユニフォームを着ている。
少年野球チームの練習に、野球好きの健一がしゃしゃり出てきているといったところだろう。
「いやいや、俺には、人に野球教えるなんてムリだよ…。プロテストも滑ったしな」
「そう卑屈になんなよ…!お前の実力は俺が知ってる。今年がダメでも来年があるさぁ!」
肩をすくめる孝平に向かい、健一はそう言って屈託なく笑う。
そして、
「おい、やろうぜ」
健康的な白い歯を光らせ、持っていたバットを孝平に差し出した。
「やるって、何を?」
「俺とお前が揃って、やることっつったら野球しかねぇだろうが」
さも当然、と言わんばかりに健一はまた笑う。
孝平はためらいつつも渡されたバットを掴み、いつも使っているマイバットより若干軽いそのグリップを、両手でしっかりと握りしめた。
「よっしゃ、せっかくだからな。今からちょいと面白いパフォーマンスしようぜ?ここにいる子供たちのためにな!」
健一はそう言って、不思議そうな顔をする孝平に背を向け、マウンドに向かって歩きながら大声を張り上げた。
「おーい、みんな!注目!ちゅうもーく!!」
子供たちが練習をやめ、何事かと健一へ視線を向ける。
そしてマウンドに上った健一は、子供たちからの注目を浴びる中、バットを握った孝平を指差してこう叫んだ。
「いいかみんなァ!あのお兄ちゃんはなァ、プロ野球選手なんだぞォ!あのお兄ちゃんが今、この俺からでっかいホームランを打つからァ、よぉっく見てなよォ!!」
「は、はぁ…!?」
まさか健一がそんなことを言い出すとは思ってもいなかった孝平は、驚きのあまり目を丸くした。
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