プロローグ

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それは遡ること数週間前の話―― 「旅行?」 「ええ、俺は仕事で行くからあんまり相手できなくて、申し訳ないんですが……。気分転換に一緒にどうかなと」 そう言ってきたのは付き合い始めたばかりの男―― 片岡誠治。 身長180越え。小山力也も裸足で逃げ出す魅惑的なバリトンボイス持ち。俳優の向井理を彷彿させる甘いマスク。一流商社のエリートリーマン。独身貴族の40歳。 恐ろしいぐらいに非の打ち所がない完璧な男。 ただ一点……いや、二点か。 この男……恐ろしいぐらいのニブチン天然草食男子。 そして――童貞。 いまだに――童貞。 ちょっと前まで、この男となんとかやりとげたろうと私も必死になっていたが、そのあまりの修道士思考に、今は涅槃の境地。 ま……変なスイッチを入れれば肉食に早変わりするということがわかったからなんだが。 「ふーん……。旅行か……」 近場の温泉とかなら行ってもいいかなという軽い気持ちで聞いてみる。 「場所はどこなんですか?」
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