プロローグ

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「マンハッタンです」 「バカなんですか?」 「いきなりバカって!!」 「大事なことだから何回でも言いますよ? バカなの? ねぇ? 時間と金が足りませんよ!!」 大声でそう突っ込む。 「真智子さん、パスポートはあるんでしょう? この間、釜山に行ったって……」 「パスポートはあるけど、お金がない」 キッパリ言うと、片岡誠治がニッコリと笑った。 「旅費なら俺が出しますよ?」 「……は?」 「旅費なら俺が出しますから、一緒に行きませんか?」 ニコニコ笑いながら言う片岡誠治をじっと見つめる。 マンハッタンまでの旅費を全額負担するって……この男……いくら稼いでんのよ……。 いや、聞くまい。 多分……神様は不公平だと泣きたくなるだろうから……。 「簡単に言うけど、劇団の稽古だってあるし……」 私は、演劇界では実力派集団として結構名高い劇団に所属している。 そのせいか、男女関係に関してはことさら厳しく、男と旅行で稽古を休みますなんて他の団員に申し訳が立たないし、だいいち座長が許さないだろう。
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