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あんずが来て、楽しくにぎやかな時間はあっという間に過ぎていく。
時計の代わりに付けっ放しのテレビが『17時になりました。ニュースの時間です』と言うのを聞いて、「帰らなきゃ」と広げていた教科書を、あんずはバタバタと片付けはじめた。
「忘れ物はないか?気を付けてお帰り」
野々村の声かけに、あんずは「よいしょっ」と、ランドセルを背負いながらニッコリと笑った。
「うん、大丈夫。バイバイ、また明日ね」
「また」
あんずはバタバタと、野々村はゆっくりと手を挙げて『また明日』と小さな約束をして、あんずは家路につく。
帰っていくあんずの背中を見送り、アパートの玄関先の定位置で、野々村はタバコに火をつけ一服する。
小さな茶飲み友達が帰った部屋には、まだその明るさやぬくもりがほんのりと残っているような気がして、野々村は立ち上るタバコの煙を目で追いかけていた。
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