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『あぁ、よかったなぁ……』
野々村は思った。
『まんざら悪い人生じゃなかった』と。
働いて働いてばかりの人生だった。子どもも嫁も、家庭を顧みない野々村に愛想を尽かして出ていってしまった。
このまま一人で死んでいくんだ。と、思って日々を無意に過ごしていた野々村に、ある日、小さな友人が出来た。
野々村のしわだらけの顔に、窓から西日があたった。
『いつものように、あんずがそろそろ来てくれる時間だ』
野々村は孫のような年の離れた友人を思い、顔をほころばせた。
こんな年寄りを相手にしても、ニコニコといつも楽しそうにやってきて、野々村の孤独を癒してしまった可愛い女の子。
『あんずに会えたから、幸せだったなぁ…』
野々村は笑って目を閉じた。
『ああ、いい気分だ――』
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