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「ののじぃ、いる~?」
いつものように、あんずが少しドアをあけ、野々村を呼んだ。
「いらっしゃい、入っておいで」
野々村は座ったまま玄関にいるであろう、小さな茶飲み友達を招いた。
まだ炬燵を出すには早い10月だが、野々村の部屋のテーブルは炬燵になっていた。もっとも、さすがに電気は通っておらず、布団がかぶっているだけであったが――。
「おかえり」
「ただいま」
ひょこりと顔を覗かせるあんずに、『おかえり』というようになったのはいつ頃であったか……。そんなに遠い昔の話ではなかったが、ごく当たり前の挨拶となりつつある。
「なんか、いい匂いがする…」
部屋に上がりながら、あんずは鼻をすんっと嗅いだ。
「そうかな。少し早いとは思ったんだが…」
野々村は笑いながら、テーブルに無造作に置いていた茶色い紙袋をあけた。中からは、金時色のサツマイモが香ばしい香りをふりまいていた。
「焼き芋?」
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