出会い

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野々村の家はあんずの家から数軒手前にあるアパートの一階だ。 温かくて小さな手を離すことにほんの少しの寂しさを感じたながら、野々村はポケットから鍵を出して玄関を開けた。一人暮らしが長い野々村の家の中はそれなりに片付いてはいたが、どこか埃っぽかった。 「きれいな家じゃないけど、まぁ上がれ」 「おじゃまします」 きちんと挨拶をして、靴を玄関にそろえて脱ぐあんずに目を細めて、野々村は小さな台所のある居間へと案内した。 居間の真ん中には一年を通してほぼ出しっぱなしであるこたつがおかれていた。 「適当に座れ。温かいもんでも飲んでけ」 「うん。ありがとう」 物珍しそうにキョロキョロしていたあんずだが、野々村に促され、ランドセルを置いてこたつに入った。 野々村は買ってきたタバコを定位置となっている戸棚の中にしまい、食器棚をあけた。体を悪くしてから酒を飲まなくなった野々村だが、替わりに葛湯などの甘い飲み物を好んで飲むようになった。たまにはココアも飲むが、あいにく今日は切らしていた。 いまどきの子供が好むかどうかはわからないが、とりあえず甘いものなら大丈夫だろう――。
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