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そんなことを思いながら、葛湯のパックを取り出し、湯呑みをふたつ出した。
パーキンソンという病気は厄介で、症状に手の震えがある。タバコの火を点けたり、ちょっとした料理をする時、そして今のようにアルミパックを開けて、湯呑みに入れて湯を注ぐだけの行為なのに手が震えてうまく出来ない。野々村が一人暮らしで不便を感じるのは、お茶や葛湯を入れるのに難儀するときや、調理の時に包丁を持つ時だ。
「ののじぃ、手伝うよ」
あんずはそう言って、野々村の隣に立った。
「入れたらいいの?」
「ああ、そのポットの湯を入れてかきまぜればいい」
「うん、わかった」
野々村にまだ、涙で腫れぼったい顔でほんの少し微笑んで、あんずは葛湯を入れた。
「熱いから気を付けてな」
「大丈夫だよ」
葛湯を運ぶときも、野々村の心配をよそにさっさとテーブルに運んだ。
「ありがとう。助かったよ」
その野々村の言葉に、あんずはとびっきりの笑顔で「どういたしまして」と笑った。
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