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それから、ふたりはこたつに入って葛湯を飲もうとしたが「熱い…」と、あんずは早くも半泣きになり、さすがに野々村は小さく吹き出した。
「だって猫舌なんだもん…」
「急いで飲むからだ。その食器棚の引き出しに、木のスプーンがある。それを使えばいい」
あんずは振り返って食器棚を見て「どっち?」と二つある引き出しを指差した。
「開けてみて、入っているほうだ。自慢じゃないが、片付けは得意じゃないんだ」
おどけた仕草で言う野々村に、少女らしい明るい笑い声が弾けた。
あんずの笑い声に釣られて、野々村も笑った。声を出して笑うのはずいぶんと久しぶりのことだ。
「あっ、本当に両方に入ってた!!」
笑いながらも、引き出しを両方とも開けたあんずは、その内の一本を取出しながら笑い続けた。
野々村もその笑いが伝染してしまったかのように「だから自慢じゃないが、片付けは得意じゃないんだ」ともう一度繰り返して笑った。
これが野々村とあんずの出会いだった。
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