出会い

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そんな出会いがきっかけであったが、家も近いということもあり、あんずはちょくちょく、野々村の家に訪れるようになった。 あんずの母親が「いつも、お世話になっているみたいで申し訳ありません」と、ちょっとした夕食のおかずを差し入れがてら、挨拶に来てくれたのは、まだ記憶に新しい。 「いやいや。年の離れた友人で出来て、楽しくさせてもらっています。どうか、気はつかわんといて下さい」と言ったが、時折あたたかなおかずや、ちょっとしたものが届く。 家庭的な味とは全く無縁だった野々村にとってはありがたいことであったが、その懐かしい味のおかずは、出て行ってしまった家族を思い出させることもあった。自分の今の状況は自分が招いたこととはいえ、一人でいることの孤独は『生きる』ことを空虚なものに変えてしまう。 しかし、野々村のちいさな友人は生命力に満ちあふれ、無邪気に野々村のもとに訪れる。あんずがくると、それだけで空虚な野々村の部屋が明るくなるような気分になった。野々村にとって、あんずがまるで自分の子どもや、孫のように思えるようになるまで、そんなに長い時間はかからなかった。
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