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そんなことを思い出したりしていると、壁の時計が、ボーンボーンボーンと三回なった。午後三時……もう少しすると、あんずが来る時間だな…と、野々村はタバコの煙をはき出した。
自分でライターの火が付けられなくなったらタバコをやめようと思っているが、本当にやめられるのかどうかは野々村自身もあやしい物だと思っている。
「ののじぃ……いる?」
いつものように小さなノックのあとに小さくドアを開け、あんずは声をかけてくる。
「入っておいで」
ガチャッとあけて入ってきてもいいのに…と、大雑把なきらいのある野々村はいつも思うのだが、これがあんずなりの気の使い方なのだろうと思い、そのままにしている。
事実、調子の悪いときには「今日はダメだ」というとおとなしく帰り、数日後に「ののじぃ、元気になった?」と、訪ねてきてくれる距離感が心地よかった。
「おじゃまします」
きちんと挨拶をして、靴を揃えてから家に上がるあんずを、野々村は定位置の座椅子に座ったまま出迎えた。
「学校帰りか?」
「うん。今日はね、合唱祭の練習だったの。2年生も歌うんだよ」
ランドセルをおろしながら、あんずは今日の出来事を話し出す。
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