白い罐

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『送葬』 ぼくは彼の残した骨で、独楽をつくる。 骨の表面は象牙質になめらかだけれども、指先でつまみ上げると、まるで氷のつぶてだ。 握りしめると、骨の温度とぼくの体温とが溶け合って、変容する。 さて、理科室はそろそろ飴色だ。 ぼくは出来上がった独楽をズボンのポケットへ滑らせ、胸を躍らせて帰路へついた。 *** 子供部屋はとても寒い。 ぼくを急かすように、裏の工場街の歯車の吠える声が、今日は高い。 ぼくはブリキの机に身を伏せて、まちきれず独楽を転がした。 独楽は廻る廻る。 指と指とでピンと弾けば、白い炭は唸りながら、机の上をぐるぐる這い回る。 タン、タ、タン。タン、タ、タン。 ぼくがブリキ板に耳を置くと、ほんとうに小さな無数の足音が ぼくのまわりを遊ぶのが分かる。 それがやがてみつばちの羽音になり、屋根を叩く雨の音へと溶け、ぼくのの鼓動と重なった頃。 ああぼくは知っている、 これは彼だ。 まぶたの裏側で、彼が過ぎてゆく。彼は脚がとても速いのに、人さらいに追い付かれて殺されてしまったのだという。 だから、なにをも振り切って、過ぎてゆくのだ 天体観測で共に見た ほうき星のみおに流されて、 彼の光は次第に掻き消される。 ふとその足音に、汽車の汽笛がまじりだすのに気が付いた。 そして鐘を打つ音、蒸気の爆ぜる音は高らかに。 ぼくが慌てて頭を起こせば、窓のそとには煙突ではなく、 ながいながい汽車がいた。 彼が迎えに来たのだ! 秘密基地の樹液のにおいを思い出しながら窓へ駆け寄り身を乗り出せば、汽車は僕を連れ出してくれる。 煙突の煙を裂いて、天駆ける。 伸びた手は、僕を捕えてはなさない。 手の持ち主は人さらいであった。僕が骨の独楽を手渡すと嬉しそうに受け取って、嚥下した。
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