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『空白』
目覚めると、空に白いチェス盤が見えました。
チェス盤はつるりと硬質で、所々に白い球体が嵌め込まれ、僕はその球体が邪魔だなと思いました。
その軸と軸との交わる網の目を視線でなぞっていると、思考は漸く回転を始めて、僕の脳髄は、それがもしかしたらチェス盤ではなくて、病院の天井なのではないかと訴えるのでした。
僕は重い身を起こし、辺りを見回しました。
ベッドやソファー、サイドテーブル、冷蔵庫。一面が雪化粧とでも言いたくなるほどに白く、僕は眩しさに眉を顰めました。
それでも一度回転を始めた脳髄は停止を望まず、ここはどこだ、と問い掛けます。
見れば、異様に広い病室には、御親切に窓が埋め込まれてありました。
軋む骨に鞭を打ち、僕はベッドを抜け、よろよろと窓を目指します。
一度動き始めた好奇心は止まりません。街や社会の秩序の概念はあれども、僕には記憶が無いのです。
僕はもしや、…
それとも…イヤしかし。
様々な愚考が、脳を泳ぎます。
はあ、と息をしいしいいよいよ望むその窓の向こう側は、僕の期待をむなしく裏切り、ただただ白い灰のしきりに降る、寂しい荒野が描かれているばかりでした。
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