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人は空気を吸って、吐いて生きている。
空気なしには生きていけない。
大汚染時代、人々は空気会社が製造した人工空気に頼りきって生活していた。
それが何百年も続き、人々は現状に慣れ切っているのだ。
その危険性にも気づかずに……。
「すごいことになっているなあ」
ソラはテレビのニュースを見ながら言った。
テレビには人工空気を貯蔵する高層タンクの摩天楼が映っていた。
周辺地域一帯の空気供給を担っている重要なタンクだ。
そこに一台の軍用エアカーが正面衝突した。
その一台を皮切りに、複数台のエアカーが他のビルタンクに突撃した。
不注意による事故ではない。
明らかな自爆テロだ。
「誰がこんなことを仕組んだのかな?」
テレビのニュースを見ながら、マドカはぼんやり呟いた。
映像に現実感を抱けなかったのだ。
「過激派の宗教組織じゃないかって言われているようだな」
その宗教の戒律では、大気清浄機できれいにした高価な天然空気しか吸ってはいけないらしい。
空気会社は自社で製造した人工空気を多くの人に吸わせたがるが、中には拒絶する人たちもいる。
空気会社はそういう団体と仲が悪いのだ。
「こんなことが本当に起こるなんてな。映画を見ている気分だ」
「大地震が起こっても絶対安全だって言われていたのにね」
ソラは両親を亡くしたエアカー事故を思い出した。
絶対安全なんて、この世にはないのだ。
「あと数時間でこの辺の空気供給が完全停止するらしい」
自分たちが当たり前のように浸っていた世界は、実は蜃気楼のようにゆらゆらした不安定な存在かもしれない。
そしてある日突然、崩壊の弦を震わせるのだ。
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