小さな奇跡

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黒く塗り潰された空。 町を優しく照らしあげる数多のイルミネーション。 そして、楽しそうに通りを行き交う数多の人々。 彼らの途絶えることのない喧騒も、今日という特別な日であることを考慮すれば仕方ないだろう。 凍てつくような寒さにも関わらず、町は彼らの笑顔で満ちている。 今年もクリスマスがやってきた。 年に一度しかない特別な一日。 当然人々は高揚し、町も普段と違った賑わいを見せる。 しかし俺は体に凍みる寒さに打ち拉がれながら、たった一人で佇んでいた。 まるで俺一人だけが別世界にいるかのように……。 ぶるっ、と体を震わせ、なんとなく空を見上げる。 白い吐息を吐きながら夜空を眺めると、町のイルミネーションの輝きにはとても適わない、健気に光る北極星がぽつんと孤独に浮かんでいた。 まるで俺みたいだな……。 その星に自分を重ねてしまい、思わず自嘲気味に笑ってしまう。
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