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街中を駆け足になってしまうのは仕方がない。派手にライトアップされた並木も、仲睦まじそうに寄り添う男女も、街全体が鮮やかに彩られていて、そこが俺の居場所ではないような気がしたからだ。
いわゆるクリスマス・イヴという記念日に、いわゆる独身という身の上の俺は場違いだった。
こんな日でも定時には終わらない仕事に感謝さえした。ああ、社会はクリスマスなんかに浮かれずに回るもんなんだなあと。それでも八時にはすべてが片付き、家路を急ぐわけだが。
――やっぱり、いざ外に出ると雰囲気があるもんだよな。
僻む? 羨む? いやいや、俺はそんな風に思いもしない。
クリスマスに彼女と聖なる一夜を過ごすなんて幻覚は社会に出てからすっかり見なくなった。性なる、なんてアホらしい洒落も以下同文だ。俺は一介の社会人、荒波に揉まれてせかせかと生きる歯車のひとつに過ぎない。残念ながら明日も普通に仕事がある、一夜に夢を見ることはない。
そう、思っていたはずだった。
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