白夜のおり

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 俺はぎょっとした。彼女が大粒の涙を流し始めたからだ。しかし、彼女は涙を気にする様子もなく話し続ける。 「よりによって、今日なんて。他に好きな子ができたって……できたって。私が告白して、付き合ってもらってたんだから、それも仕方ないって思いもしました。でも、やっぱり今日は、彼と一緒に過ごしたかった……」  ああ、それは災難でしたねとしか言いようがない。貴女が悪いんですよとか、最低な彼氏でしたねとか、好き放題言うこともできるが、別に他人の俺がとやかく言う必要もないだろう。いや、そもそもこの話を聞く義理もないし、いきなり話されて正直迷惑だったりもするが。  それでも何か言葉を探しているのは、俺も相当のお人好しなのか。 「……泣かないでください」  男らしく俺の胸で泣けとか、そんな粋なことを言う勇気はない。
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