一匹の存在

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「びっくりしたわよ。クリスマスイヴの日に帰って来た史彦さんを出迎えたら亀を持って帰って来たんだから」 「あれは仕方無かっただろ。イタズラか何か知らないけど雪が降ってる中、玄関の前に亀が一匹置いてあったんだからさ。 照明が点いてなかったら踏んでしまうところだったよ。」 あの日は風が強かったから煽られたのかもしれないな。と言い、史彦は肩を竦めた。 「初めはいろいろと調べて戸惑いながら世話をしたけど、今ではすっかり馴染んだわね。」 香織は微笑みながら続ける。 「亀の記憶力がどれくらいかわからないからフーちゃんは覚えてないかもしれないけど、フーちゃんの名前は私達家族がみんなで考えたのよ。 "フー"は"歩"と書いてね、一歩一歩健やかに人生を歩んでほしいからフーちゃんなのよ。」 フーちゃんは亀だから人生とは言わないかもね。と、付け足して香織は笑う 「最初は"あゆむ"と"あゆみ"のどちらしようかと思っていたけど、性別の見分けがつかなかったから"フーちゃん"になったんだよな。 何にせよ今日は新しい家族に逢えた記念すべき日でもあるんだぞ、ってフーちゃんに言ってもわからないかな。」 私はそこまで話しを聞いて周りを見た。 桐崎家全員が私に笑顔を向けてくれている。 私を家族だと言ってくれている 私が冬眠中に見た暖かい夢はこの瞬間だったのかもしれない。
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