一匹の存在

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外が薄明るくなり始めた頃、管理の行き届いた段ボール箱ほどの飼育ケースの中で私は目を覚ます。 ここは桐崎(きりさき)家、二年前に私は桐崎家の家主に拾われ、以来ずっとここで暮らしている。 野生の時に比べ、ここの環境は私にとって快適とはいかないが、良いと言えた。 装置により一定の温度に管理されている水、毎日与えられる餌、初めは戸惑ったが慣れてしまえば楽だった。 不満があるとすれば、飼育ケースの外に出られる機会が少ないので、遠くまで歩けずほとんど似た景色しかみれないことだ。 私がゆっくりと意識を覚醒させていると 「うぉー、寒いけど雪だー!!」 「お兄ちゃん、うるさいよー」 私の頭に二人の子どもの声が伝わる。 私は一年ほど前に不思議な力を得た。 人の言葉が理解できるようになったのだ。 私の身体の聴力は優れていないが、声が頭に伝わってくる。 今の声は、桐崎夫妻の子どもである康輝(こうき)と爽華(さやか)の声だ。 10歳と9歳という人間の中では幼い二人は、いつものように母親である香織(かおり)に起こされ部屋から出て来たのだろう。
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