一匹の存在

4/14
前へ
/14ページ
次へ
「康輝、爽華、朝ごはんできてるから早く食べなさい。」 「はーい、フーちゃんまたねー」 「ご飯だー」 母親の香織に呼ばれ、康輝と爽華は居間へ向かう。 ちなみに"フーちゃん"とは私の呼び名だ。 私は、人間が言うところの亀と呼ばれる種族に属しているが、桐崎家の家族は私のことを"フーちゃん"と呼ぶ。 居間へ向かう子ども達と入れ替わるように、一家の大黒柱であり香織の夫である史彦(ふみひこ)が現れ、史彦は洗面所へ向かうと歯ブラシをくわえて私に顔を向ける。 「おはよう、水温はどうだ? 冷たくないか?」 史彦が歯を磨きなから話しかけてくる。どうやら飼育ケース内の環境を気にかけているようだ。 私の飼育ケースは玄関に設置されているが、冬が近づくにつれて史彦が防寒対策を行う為、これといった不満や異常はない。 私は、言葉を喋れないため、首を伸ばしていつも通りのアピールをする。 その姿を見た史彦は「大丈夫みたいだな」と一言呟き微笑むと口を濯ぎ、コートを着て身支度を整える。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加