一匹の存在

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「それじゃ、フーちゃんもご飯にしましょうねー」 子ども達を見送った後、香織が防寒対策で二重になっている飼育ケースに手をかけ、上部を外すと固形の餌を撒く。 食事は1日に1回あり、私は十分な栄養を摂取する。 私は、大きな波を立てないようにゆっくりと飼育ケースの中を移動し、水面に浮かぶ餌を食べる。 しかし、今日はいつもより浮かんでいる餌が少ないように思える。 餌を巻いた香織の顔を覗うが、微笑みこちらを眺めているだけで追加の餌は無いようだ。 私は餌を食べ終えると、飼育ケースの透明な壁に甲羅を当て、ゴツゴツと音を立てて追加の餌を要求する。 「あら、フーちゃんは今日も元気ね~」 アピールを続ける私に香織はそう言って嬉しそうに微笑むと、家の奥へと戻ってしまった。 どうやら今日は、これ以上の餌を期待できないようだ。 仕方ない、と私は少し落胆し、今日はあまり動かずに体力の消耗を抑えようと決めた。
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