一匹の存在

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昼過ぎ、私はあれから飼育ケースの中で、じっと動かずに外を眺めている。 外は雪が舞い、地面や木々など、あらゆるものを白く染め上げている。 そういえば、私が初めてこの家で目を覚ました時も、外は真っ白に染まっていたな。と、じっとして暇をもて余している私は外を眺めながら物思いに耽ることにした。 まずは、先程ふと思い出した私が桐崎家に来たばかりの事を思い起こしてみようか。 冬が近づくにつれて外の水温が下がり生活しづらくなった頃、私は土の中で冬眠にかかり春を待つ事にした。 よく覚えていないが、私は冬眠中に何か暖かい景色を見ていた気がする。 今思えば、あれは人間が夢と呼ぶものだったのかもしれない。 冬眠中の私が次に目を覚ました時はこの飼育ケースの中だった。 その時は、まだ人間の言葉を理解する事ができなかったが、私を見た康輝と爽華がよく動きまわっていたことを覚えている。 はじめは飼育ケース内の環境に戸惑いを感じた私だったが、冬の白い景色が春の草花が芽吹く景色に変わる頃にはすっかり慣れてしまい、居心地が良いとも感じていた。
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