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イタリアのとある森に、ひっそりと暮らす化犬の一家があった
その化犬は、繁殖するのに雄は要らなかった
その為一家に父親はおらず、母親とまだ生まれたばかりの子供が数匹
母親は子供達の成長を日々愛しく思い、幸せな日々をひっそりと過ごしていた
そんなある日、一家の前に一人の人間が現れた
母親は子供達を守るため、人間の男に告げる
“森から出て行きなさい。そうして私達の事を誰にも言わずにいれば、私は貴方を喰らわないわ”
人間の男は言った
“ああ、やっぱり美しい犬神様だなぁ。俺はね、ずっとあんたを知っていたんだ”
母親は驚く
“私の事を知っていた?それならなぜ貴方はこの森に来たの?”
男はにこりと笑って言った
“あんたに会いたかったんだ。こうして話したかった。…昔さ、ガキの頃に森に迷い込んで、偶然あんたを見かけたんだ。その頃からだよ、俺はあんたに惚れたんだ”
男はその蒼い目で母親の紅い目を見つめる
“笑っちまうだろう、だけど俺は本気なんだ。村の親にももう別れは告げてきた。もうこの森から去るつもりもない”
あんたと子供達の事は誰にも言わない、だからどうかあんたと一緒に生かさせてくれ
と男は言った
母親は男の目を見つめ、その奥にある男の覚悟を見つめる
“…分かりました、貴方を私の元に置きましょう”
“本当かい”
母親は少し目元を緩めた
男は涙ぐみ、母親の前足にキスを落とした
“ありがとう、犬神様”
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