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揺らめく灯りを頼りに辿り着いた先。
森の奥だというのに、老舗旅館のように大きく立派な屋敷がそこにあった。
「…隣街に抜けたのか?」
にしてはこの屋敷以外の家などはなく、周りは闇に包まれている。
カサリ。
背後で草を踏む音にビクリと肩を震わせた。
「おや。お客様ですか?」
聞こえてきたのは穏やかで耳に心地く響く低い男の声。
「お客様?って事はここは旅館か?」
「そのような物。ですかね?でも、今はお客様は1人しかおられませんが…」
「ははっ。繁盛してねぇんだな。」
人の存在に安心して振り返り、その人物を見て固まった。
声をかけてきた男性は20代前半くらいの年齢で、黒く長い髪を一つに纏め黒と白の和服を上品に着こなしていた。
何より目を惹いたのは男性の容姿だ。黒く輝く瞳と着物の襟から覗く白く透き通る肌。整った顔立ちに薄く弧を描く形のよい赤い唇。
人間離れした妖しく美しい人であった。
どうかなさいましたか?と首を傾げると細くしなやかな髪がサラサラと流れ落ちる。
男なのに色気があるというか何というか。醸し出す雰囲気に呑まれそうになった。
なよなよしてそうで、隙がない。
しかし、所詮は人だろ?コレにはかなうまい。
男は黒い鞄を握っている事をしっかりと確かめた。金はある。でも使う気はさらさらない。
懐に忍ばせた拳銃を、美しい男の顔に照準をあてた。
さあ!ビビれ!その整った顔を歪めて俺の前に平伏せ!!!
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