プロローグ

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小屋にある古びた木の扉を開こうと、取っ手に手を掛けたところでピエロが口を開いた。 「まあまあ、せっかく来たんだから、少しはゆっくりしていったらどうだい?こんな真っ昼間から追い掛けっこをやってたんだ。 時間はあるんだろ?ケグロイ君」 「オッサン、お前は俺が無職の暇人だと、そう言いたいのか!」 まあ、その通りだけど。 顔を隠さず、この容姿で、町で仕事をしたら、間違いなく捕まる。 故に俺は無職だ。 無職といっても引きこもりじゃあないぞ?森の中にたんまりいる動物を狩って、ギリギリの生活をしていたのさ。 「その椅子に腰を掛けなよ。今日から、此処がケグロイ君のマイホームなんだから、親指でもしゃぶりながら素直に喜んでいいよ」 そう言ってピエロは小屋にある唯一の椅子に腰を掛ける。 「…………」 ツッコまないからな。色々と。 冷静に考えてみて、俺の住んでいた一軒家は、逃げる際に追っ手に焼き払われているから、帰ったところで行く宛がない。 知り合いもいない俺は、必然的にこのオッサンを頼るしかない訳で。 俺の思考を読んだかのようにピエロが口を開いた。 「嬉しいかい?」 「まあ、嬉しい…かな」 「ふーん、そうか、そうなのか、嬉しいんだね。座ろうとした席をおじさんに譲ることで、自分の行った偽善行為に満足し、悦に浸っているいるのが嬉しいんだね。典型的な似非君子なんだね、ケグロイ君は」 そうだよ、その通りだよ。世の中の大半は偽善者で残りは悪人でできてんだよ。 「因みにね、ケグロイ君、嬉しいの『喜』は『ご馳走を盛ったさま』に『口』を足した会意文字で、意味合いは、笑って食事をすること、 その『喜』に『女』を加えると女性と笑って食事をするってことなんだ。 つまり、ケグロイ君は、僕からのプレゼントで女性と食事した時と同じ気持ちになった訳だ。 ケグロイ君、先に言っておくけど僕にそっちの気はないからね。男の君に」 「俺もねぇよ!」 もうね、口を開くとね、何気ない一言でね、首が絞まっていくの。エッチな本がおばあちゃんに見付かった時ぐらいめんどくさいの。 …さてと、引越しも終わったし、そろそろ次の引越しの準備を始めるか。
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