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しばらくすると、原田さんが手招きをしてくれた。
私は屯所の前までゆっくりと歩いた。
なんだか急に緊張してきて、なかなか前に足を出せなかったからだ。
しかも、門番をしている隊士がなんで女がこんな所にいるんだろうというような目で私を見ていたから、余計に緊張して不安になってきたのだ。
(自分から言っておいて、こんな所で立ち止まってる場合じゃない!!)
そう思うものの、屯所の前まで行くのに時間がかかってしまう。
そんな私の様子に気付いたのか、原田さんは屯所の門の前で私の背中を軽く押してくれた。
そのおかげで屯所の中に1歩、足を踏み入れることができた。
「ほら、中で近藤さんたちが待ってるぜ。」
「・・・はい。」
私は自分の手をぎゅっと拳にして、原田さんの背中を追いかけた。
「・・・・・。」
「どうした?」
辺りを見渡しながら原田さんについて行っていると、不思議そうに問いかけられた。
「あっ、いえ。なんでもない、です。」
私は現代の普通の家や建物ではまず見たこともないような光景に驚いていたのだ。
中庭には白い小石が敷き詰められている所があり、まるで日本庭園のようで、たくさんある部屋はドアではなく全てふすまで仕切られている。
ここはたぶん江戸時代の京都らしいから、当たり前といえばそうなのかもしれないが、つい辺りを見渡してしまう。そしてますます実感してしまうのだ。
「あそこだ。」
急に原田さんが立ち止り、少し先の部屋を指差した。
「あの中で、近藤さんと土方さんが待ってる。」
(“近藤さん”。あの、銅像の人だよね。なんだか威厳があって怖そうなかんじがしてたんだけど・・・)
「いいか?」
そんな事を思い出していると、いつのまにかあの部屋の前に立っていた。
私が小さくうなずくと、原田さんは
「近藤さん、土方さん。入るぜ。」
そう言ってふすまを開けた。
私は拳にしていた手をより強くにぎり、小さく深呼吸をして部屋の中に入った。
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