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「悪いが、他の者を呼んできてくれないか?それから、こいつを空き部屋に連れて行ってくれ。」
「あぁ、分かった。」
原田さんは立ち上がると私の腕を掴んで部屋を出た。
ふすまを閉めると、私の腕を掴んでいた手を離してくれた。
「急に掴んで、悪かったな。大丈夫か?」
「・・・はい。」
「そうか。」
そう言って無言で歩き始めた。
「まさか、未来から来たやつに会っちまうなんて思ってもみなかったな・・・。」
数歩歩いたとき、原田さんが前を向いたままそう言った。
「あっ、あの____」
「信じるよ。」
「えっ?」
私の言葉をさえぎったのははあまりにも意外な言葉で、私は驚いて立ち止まった。
「私が、未来から来たっていうこと・・・信じて、くれるんですか?」
「あぁ。」
当たり前のように、なんの迷いもなく答えた。
「どうして、ですか?」
「えっ?」
「すぐに信じてもらえるような証拠なんてないのに・・・どうして、ですか?」
私はそう尋ねずにはいられなかった。
信じてもらえることは嬉しい。けれど正直自分でもまだ信じられていないのに、いきなり出会った見ず知らずの人の、しかも普通ならありえない信じられないような話を、そんなにもすぐに信じれるものなのだろうか・・・。
「証拠なら、あるじゃんか。」
原田さんは急に振り返ると少し屈んで私の目を覗き込んだ。
「知らない他人に対して、“助けたい”って言って泣いてたじゃんか。」
「・・・・・。」
「俺は、あの“涙”を“信じる”。っていうことは、お前の言っていたことを“信じる”。ってことだろ?」
そう言って優しく頭をなでてくれた。
そんな風に思ってくれているなんて知らなかった。
ここに来て初めて人の暖かさに触れられた気がして、撫でてくれたところからじんわりと伝わってくるような気がした。
「あっ、ありがとうございます・・。」
私はそう言って頭をさげた。
お礼の言葉の他になにも言葉が思いつかなかった。“信じる”という言葉がこんなにも胸に響きわたり、重い言葉だと思わなかった・・・。
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