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「ありがとう。」
近藤さんはにっこりとほほ笑みながら立ちあがった。
「では、紹介でもしていこうか。」
「えっ?」
この話はここで終わり、もしくはもっと問い詰められるかと思っていたが思いもよらないことを言われた。
「皆の紹介と、桜木くんの自己紹介だ。」
「自己紹介、ですか?」
「あぁ。少しの間であったとしてもここで暮らすことになるんだ。敵などではないんだ、名前くらい互いに知っていてもいいだろう。では、私から。」
土方さんが止めさせようと何か言おうとしていたのも、周りの隊士たちが驚いていたり不服そうであったり、呆れていたりするのも気にせずそう言ってコホンと一つ、咳払いをして背筋を正した。
「私は新選組局長、近藤勇だ。よろしく頼む。」
堂々と誇らしげにそう言いながらにっこりと笑って、近藤さんの右側に座っている人を見る。その人は明らかに仕方がない、といった表情を浮かべて
「山南敬介、新選組の総長です。」
優しく微笑みながら自己紹介してくれた。軽く頭を下げてくれたので、私もあわてて頭を下げた。
ここからは近藤さんが勝手に紹介を始めた。きっと名乗りたくないと思っている隊士もいるということに気づいているからだろう。
「そこに座っているのが沖田総司。一番組隊長だ。その隣にいるのが斎藤一。三番組隊長だ。」
沖田さんと斎藤さんは何を思っているのか、無表情で私を見ている。
次に近藤さんは私の後ろの方に座っている人たちの方を見た。
「左から二番組隊長、永倉新八。八番組隊長、藤堂平助。十番組隊長、原田左之助だ。」
永倉さんはただじっと私を見ていて、藤堂さんは少しだけ驚いているような気がして、原田さんは笑いかけてくれた。
「そして私の左隣にいるのが新選組副長、土方歳三だ。」
「副長・・・。」
「あぁ。桜木くんの言っていたとおり、“鬼の副長”とも呼ばれている。」
近藤さんは笑いを押し殺しながらそう言った。
「えっ?そんなこと言ったのかよ?!」
するとすぐに藤堂さんが声を張り上げてそう言った。と同時に、皆が笑いだす。
土方さんまでもが
「近藤さん、余計なこと言わないでくれよ。」
と苦笑していた。
部屋の中は一気に笑いと温かさに包まれ、私は皆が笑っているのを見回した。
(あんなに怖そうな顔をしていたのに、楽しい人たち、なのかな?)
そう思うと少し不安が解けた気がして、私もつられてクスリと笑った。
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