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「たしかに、桜木くんには悪いがそれがいいかもしれないな。」
近藤さんも斉藤さんの意見に同意をし、私は藤堂さんから着物を借りることになった。こんなにも話が早くまとまり、未だに状況の把握ができない私は置いていかれながらも、決定事項に逆らうことはできなかった。
「とりあえずだ。あんたがここに住むにあたっては、一歩もこの屯所から出るな。部屋から出るときは、必ず見張りの隊士と一緒に行動しろ。いくら屯所内とはいえいつ何があるかわからない。そして他の奴らにあんたの正体がばれても面倒だ。分かったな?」
「・・・はい。」
土方さんから諸注意を受けて完全にこの時代の、しかも新選組の皆さんと暮らすことになった私は、また自分の手を拳にして緊張や不安をまぎらわそうとした。
「総司、こいつを部屋に連れて行け。他の隊士に見つからないようにな。」
一通り屯所の説明や諸注意などの話が終った時、土方さんがそう言った。
「はぁ、僕ですか?」
そう言って少し面倒くさそうに腰をあげる。
沖田さんは先ほどから微笑むことはあっても一言も話さなかったため、私は初めて沖田さんの声を聞いた。
(あれ?なんか前に聞いたことがあるような・・・)
そんなことを思いながらもついて行った。
「・・・・・。」
沖田さんは無言で私の前を歩いた。
そして何の会話を交わすわけでもなく部屋の前についた。
「あの、わざわざありがとうございました。」
「・・・本当だよ。」
「えっ?」
冷たい声での返答に思わず顔を見上げた。
沖田さんは冷たい目つきで私を見下ろしていた。
「こんな嘘ついて何がしたいの?」
「うっ、嘘じゃないです!」
「でも、すぐに分かる証拠がなにもないなら、嘘だと思われても仕方ないですよね?」
「それは___」
「まぁ、騒ぎだけは起こさないでくださいよ。」
そう言って私を部屋に突き飛ばし、ふすまをピシャリと閉めた。
「・・・・・・。」
私は驚きのあまり、しばらくその場に固まっていた。
(沖田さんって、あんな人なの?・・・でも、沖田さんの言うとおりだよね。)
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