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「壬生寺?」
寺社の門にかけてある木の札にはそう書いてある。
見覚えも聞き覚えもないはずのお寺の名前。なのにどこか懐かしい感じがする。
私がじっとその札を見ていると、急に後ろから声をかけられた。
「あの…」
「えっ?」
振り返ってみると、小柄な着物姿の女性が立っていた。ショートカットで大きな目、鼻筋が通っていて白い肌。モデルのような綺麗な顔立ちに、なにかの撮影をしているのかと咄嗟に考えた。
「あなた学生さん、ですよね?」
そんなことを考えていると、その女の人が微笑みながら尋ねてきた。
(透き通るようなきれいな声。…あれ?でも、制服のままだからわざわざ聞かなくても分かると思うのに)
「…はい。」
私は少し不思議に思いながらも返事をした。
「このお寺に、歴史に興味があるのかしら?」
「えっ、歴史、ですか?えっと…」
突然の質問に戸惑い口ごもってしまう。
「えぇ。ここがどんな場所か知っていて来たんじゃないのかしら?」
「あっ、いえ。たまたま、通りかかっただけで……あの、ここはどんな場所なんですか?」
何故か女の人が言っていたことが気になり、思わず尋ねてしまった。
すると、女の人は“壬生寺”の方を見つめて目を細めた。
まるで、遠い昔のこと思い出しているかのように…。
「あっ 、あの_____」
「ここはね、“本当の武士たち”がいた所よ。」
女の人は私の言葉をさえぎるようにそう言った。
さっきまでとは違う、どこかさみしげな声で…
「“本当の、武士たち”?」
「えぇ。知りたかったら、あの小屋の中にある資料室に行ってみるといいわ。」
女の人はそう言いながら、壬生寺の中を指さした。
その指の先をたどると、そこは壬生寺の中にある小さな小屋のような建物で、のれんがかかっていた。
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