クリスマス短編

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「メリークリスマス」 白い息を身にまとって、赤い服を着た天使が降りてきた。 初めてサンタを見た時僕はそう思った。 サンタは煙突からスルスルと中に入る。 5分程経つと、クッキーなんかをくわえながら煙突からひょっこりと顔を出す。 そのあとサンタは服に着いたススを掃い、控えめに口笛を吹く。 呼ばれたソリが微かな鈴の音と一緒にやってくると、サンタは音もたてずに身軽に飛び上がって、2mも上を通り過ぎるソリに何の問題も無くおさまった。 サンタは若かった。 正しく言うと、若く見えた。 サンタはずっと昔からいるけれど歳をとらない。 サンタは毎年子供達の願いを聞き届けて、白い袋いっぱいに詰まった夢を配って回らなきゃいけないんだから歳をとっちゃ困るんだ。 サンタの横顔は優しく、凛々しく、なのに無機質だった。 僕はずっと前から年に一度のクリスマスにサンタを眺めているけれど、その横顔が変わることは一度もなかった。 サンタは毎年目に優しさと力強さをたたえ、白い袋から取り出した夢を淡々と子供達に配ってまわった。 僕はサンタが好きだった。 夢を配る仕事なんて素敵じゃないか。 僕と同じように、とてつもなく長生きなのもいい。 僕の視界を遮る雲を払ってくれるところも大好きだ。 サンタを初めて見てから数えるのも忘れる程の年月が流れた2012年のクリスマス。 例年どおりに空からサンタを見下ろしながら、僕は素敵な事を思いついた。 ──今年は、サンタにもクリスマスプレゼントをあげよう。
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