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ハルというこの子は、石橋の下で膝を抱えて座っているらしい。
ハルがもぞもぞと、更に膝を抱え込む気配がした。
「ハルがいい子だから、俺は来たんだよ」
「ハルは悪い子だよ」
「俺はいい子の所にしか行かないんだ」
「でもハル、悪い子だよ」
ハルの声が泣きそうに震えた。
「……ハルは、いい子だよ」
ハルの頭に手を置いて言うと、ハルがびっくりした様に俺を見上げた。
「ハルがいい子だったら……」
ハルの頭がゆるゆると揺れた。
「ハルがいい子だったら、ハルは……」
ハルを抱き上げて、暗い石橋の下から外に出る。
ハルの体はその存在を疑ってしまう程に軽かった。
思わず抱き上げた腕にぎゅっと力を込める。
空は曇っていた。
手を空に翳して横に動かし、雲を避けさせた。
満月が顔を出す。
この力があってよかったなと思った。
ハルの顔を覗き込んで、ハルの目を見つめる。
「ハルが出てきたから、お月さんが嬉しがって顔を出したよ」
ハルの丸くて茶色い瞳の中で、丸くて明るい月が輝いた。
唇を噛んで月を見上げるハルの頭をゆっくりと撫でる。
柔らかくて長い茶色の髪は、絡まっていて少し指に引っ掛かった。
「ハルは悪い子だって、言った」
ハルが、月を見つめたままぽつりと呟いた。
──小さな子供に悪い子も何もあるかよ。
これからどうにでも変わっていく子供に、そんな事を言う人の気が知れなかった。
この子は誰かの悪い子という言葉に縛られて、抜け出せずにもがいている。
「お月さんが顔を出すのは、頑張ってる子の顔を見たいからなんだよ」
ハルを抱いたまま河原に腰をおとす。
月が綺麗だった。
ハルが俺の赤い服のすそを、ぎゅっと掴む。
「……ほんとに?」
「本当に」
「皆ハルの事がきらいなんだって、言った。
ハルの事好きな人なんていないんだって言った」
「そうなの?」
びっくりしたというふうに、ハルを抱いたまま後ろに反り返った。
「えぇっそうなんだ。
でもそれ、誰が言ったのか知らないけど嘘だよ」
ハルの頭に置いていた手もハルのお腹に回して言うと、ハルが俺の腕に手を置いてぶんぶんと首を横に振った。
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