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「嘘じゃないよ!!
おかあさんは嘘なんかつかないんだよ!!
おかあさんは一番凄いの!!
いっぱい、なんでも知ってるんだよ!!」
ハルの顔が誇らしげに輝いた。
──そうかこの子の母親が、この子に悪い子って言ったのか。
ハルを叱った拍子に思わず言ってしまったのかもしれない。
ハルは母親に叱られて、ふて腐れて家出したのかもしれない。
でも、ハルを見る限りそうとは思えなかった。
俺の腕に置かれた手は骨張っているし、腕は小枝のように細かった。
ほつれた髪が絡まっている首は、触れたら折れてしまうんじゃないかと不安になる程に頼りなさげだった。
「だからハルは悪い子なんだよ。
悪い子はいらないから、出ていきなさいって言ったんだよ。
だからハルがおうちに帰らなくても探してもらえないんだよ。
だからハルがおうちに帰っても、入れてもらえないの」
ハルの声は次第に震え、ハルの顔はだんだん下を向いていった。
ハルのわきの間に手を入れて、ハルの顔が正面から見えるように抱き直す。
ハルの茶色い瞳は涙で歪んで、ほっぺは冷えて真っ赤になっていた。
寒さが少しでもマシになるようにハルの体を抱きしめる。
ハルの冷たくて小さな手を俺の手で包み込んで、はぁーっと息を吐いて温めた。
「おかあさんも間違える事があったんだよ。
皆がハルのことが嫌いだなんて、そんなことないんだよ」
「おかあさんは間違ったこと言わないもん!!
おかあさんはほんとのことしか言わないもん!!!!」
ハルの目から涙がぼろぼろと零れた。
ハルのほっぺが涙で更に冷えて固まる。
鼻水も出て来たから、思わず袖で拭ってしまった。
──小さな子供というのは、どうしてこうも母親に絶対の信頼を寄せているんだろう?
泣きじゃくるハルを無理矢理抱きしめる。
──どうしてこの子の母親は、子供がこんなに自分を求めているのにそれに応えてやれないんだろう。
ハルの頭を撫でながら、胸の奥が痛んで眉間にシワをよせた。
世の中にはハルみたいな子供が数えきれない程沢山いる。
俺に自分の為のプレゼントを頼んでくれるような人が、いない子が──。
親には親の事情があるけれど、子供には子供の気持ちがある。
食い違いに傷ついてしまうハルの様な子供達に瞼の奥が熱くなって、ハルの硬い肩に顔を埋めた。
ハルの体は凄く冷えているのに温かくて、余計に涙腺が刺激された。
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