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──震える俺の腕に、ハルは気付いただろうか?
目の奥から滲み出る熱をどうにか引っ込めてハルの目を見つめた。
擦りすぎて赤く腫れたハルの目から、出来るだけそっと涙をすくいとる。
「じゃあおかあさんに同じ事をもう一回聞いたら、きっと違う事を言うよ」
ハルがぼろぼろと涙と鼻水を垂れ流したまま、俺の目を見た。
ハルのおでこに、俺のでこをこつんとぶつける。
「俺はハルが大好きだよ。
ハルが大好きだからプレゼントを持ってきたんだ。
皆がハルの事嫌いなんてないよ。
サンタクロースは、ハルが大好きだよ」
ハルのぐしゃぐしゃな顔が、くしゃりと歪んだ。
「サンタさんは、ハルが好きなの?」
ハルの目を見て頷いた。
「サンタさんはハルがいらなくない?」
もう一度頷いた。
「ハルがいたら吐き気がするとかない?
ハルがいたら、ふこうにならない?
ハルはあくまじゃない?
ハルはご飯食べてもいい?
寝てもいい?
抱き着いてもいい?」
ハルが俺の目を見て、ごくりと喉をならした。
「お父さんが遠いところに行ったのは、ハルのせいじゃない?」
一度頷いた。
その後、何回も頷いた。
ハルの純粋に悲しい気持ちが腕を伝って流れ込んで来たみたいに胸の奥がツンと痛んで、鼻の奥がじわりと暖かくなった。
暗い橋の下でずっと一人で泣いているハルが目の前に浮かぶ。
どれだけ傷ついても母親を慕って泣いてしまうハルが、堪らなくいじらしかった。
「ハルは、ハルだよ。
周りの事がぐるぐるまわっても、それはハルのせいじゃない。
そうなるようになってるだけなんだよ。
ハルが悪いことなんか何もないんだよ」
ハルがうぁーんと泣いて俺の腹に顔を埋めた。
うぁーん うぁーん
どうしようもなく愛しくて、ハルを抱きしめる腕にぎゅっと力を込める。
温かい。
ハルは凄く温かかった。
ハルの声に吸い寄せられたみたいに俺の隣に降り立ったトナカイ達が、ハルの周りに集まって壁を作った。
格段に暖かくなった世界の中で、ハルの透明な泣声だけが響いた。
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