ブラック・アウト 1

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…阿呆やな。なに弱気になってんねん、自分。 嫌な想像を鼻で笑い飛ばして、THE EIGHTへの帰り道を辿る。 今はまだ、考えることじゃない。 穏やかで騒がしい日々、自分たちが作り上げてきた日常は、まだこの手の中にある。 きんと冷えた空気に混じる、水分の匂い。 このまま今年初めての雪にでもなればいいのに。 そんな他愛のない思考は、最後の角を曲がると同時に消えうせた。 灯りを落とした店の看板の横に、蹲る人影を見つけたから。 酔客か、はたまた… 咄嗟にここのところの仕事内容を浚ってみたが、特に面倒なトラブルは抱えていなかったはずだ。 ただの酔っ払いにしても、この季節だ。放っておいてそのまま翌朝凍ってましたーなんて警察沙汰は御免被りたい。 こちとら自慢じゃないが探られて痛まない腹の持ち主などいやしない、無法者の集まりなのだから。
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