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約束の場所に行くと彼がただ独りポツンと座り込んでいるのが見えた。
周りには誰ひとりとしている気配すらない。
街の喧騒からも遠く離れ、まるで世界中で私と彼しかいないんじゃないかと言う気になる。
彼を見つけた瞬間、私の足はまるで地面に縫い付けられたかのように止まってしまった。
シーンと静まり返るなかザザン……ザザン……と波が寄せては返る音だけが聞こえる。
彼は真冬の砂浜にひとり座ってただただ海を眺めていた。
夜の海は本当に真っ暗で、まるで世界の全てを飲み込もうとしているかのように見える。
ポッカリと大きな口を開けて……。
ザザン……ザザン……。
寄せては返す波の音だけが静かに、断続的に音を奏で続ける。
私の足は未だ動かない。
彼もまた海を眺めたままじっとしている。
身動きひとつしない彼はまるで人形のように無機質だった。
北風に吹かれ続けた身体は熱を奪われたのか彼の顔色は青白かった。
それがまた彼を人形のように見せていた。
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