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「…………」
肩が僅かに上下に動く程の呼吸をして、戸に足を向けた。
開く前のマナーなんて何のその――「すみません」や「失礼します」などの一声を言わずに、引き戸を開けた。
玄関に入り、靴を脱いで上がる。
「……ん…?」
人の気配を感じ、顔を上げると、前方に人が立っていた。
「……何も言わずに入ってくるなんて……、泥棒かと思ったよ」
無断で入ってきた人物が知り合いであることに、ちょっと呆気に取られた顔を浮かべていた。
――その人物は、此処寺子屋の創設者である上白沢 慧音(カミシロサワ ケイネ)。
そして、人里の皆の人気者。
「あぁ…悪い。驚かすつもりは無かった」
「……ま、何となく『そろそろ来そうだな』って思っていた頃だ。
ただ、時間帯が悪い。此方はそろそろ授業を始める頃なんだ」
「分かってる……。隣の部屋で待たせて貰うよ」
「うん、そうしてくれると有り難い」
「けーねせんせー、授業始めようよー!!」
授業部屋から生徒の声が此方側にも響いた。
見れば、何人かの子供が頭だけ覗かせて此方を見ていた。
「あぁ、分かった。直ぐに始めるよ」
それに対して明るい声で慧音は言い返した。
「じゃあ、授業が終わった後で」
「…あぁ」
先に慧音が動き、踵を返して、彼女は授業部屋へと入っていた。
続くように足を踏み出し、その隣にある一室へと入った。
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