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「どうかなされましたか時雨さん?」
「ん……?」
顔を上げると既に紅茶を運んで来た阿求さんが心配な表情をして見詰めていた。
――……なんて愛くるしい瞳なんだ……。
「時雨さん?」
言葉を返さない男に、更に心配を扇がれたのか、少女はもう一度その名を尋ねた。
「あ…、イヤ……何でも無い……」
「…そう、ですか…?険しかったですよ?」
「まぁ……、厄介な考え事をしていただけだからな……」
「はぁ……」
彼女の質問に回答しても、まだ少し不安なのか、そんな表情は払拭出来なかった。
「――それなら良いんですが……。紅茶です。どうぞ、御賞味あれ」
「あぁ……ありがとう」
差し出された紅茶を掴み、香りを楽しむ。
……いつも呑んでる茶とは違い、芳ばしい匂いだ。
「…………」
舌触りの良い、この紅茶の味わいを楽しみながら呑む。
「如何ですか?」
「……あぁ、旨い」
「そうですか、有難う御座います♪」
良い感想を聞き、笑顔を表す阿求さん。
その笑顔を見ると、少し心は晴れ晴れとする。
「…………」
ゆっくりと、そのまま飲み干して、湯呑み茶碗を置く。
「もう一杯、いかがですか?」
「……。そうだな、貰おう」
「はい」
そう返事して、阿求さんは紅茶を注いでくれた。
それを手に取り、再び味を楽しむ。
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